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東京高等裁判所 平成10年(ネ)4567号 判決 1999年5月13日

大分県大分市明野紅陽台一一-八

控訴人

植木新一

香川県仲多度郡多度津町本通三丁目一番五九号

被控訴人

財団法人少林寺拳法連盟

右代表者理事

鈴木義孝

右訴訟代理人弁護士

斎藤方秀

木村修治

小野昌延

南逸郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

右控訴人敗訴部分に係る被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の事実及び理由の第二の一及び二のとおりであるから、これを引用する。(ただし、原判決三頁末行に「社団法人連盟」とあるのを「社団法人少林寺拳法連盟(以下「社団法人連盟」という。)」と訂正する。)

一  控訴人の当審における主張

1  原判決は、控訴人が、社団法人連盟の門下生等約五〇名に宛てて、本件パンフレット及び郵便払込通知書を同封した本件封筒を送付し(被告行為(一))、また、所定の金員を振り込んだ社団法人連盟の門下生等に対し、本件小冊子等を同封した郵便物を送付した(被告行為(二))旨認定したが、この認定は誤っている。控訴人は、右各行為を行っておらず、その立証もされていない。すなわち、本件封筒を受け取ったとされる者は、いずれも、控訴人の友人でも弟子でもなく、控訴人は、会員数数百万人に及ぶ被控訴人の門下生の住所、氏名などを知らないのである。被控訴人は、控訴人が何故それらの住所、氏名を知っていたとの立証も、控訴人が本件封筒を被控訴人の門下生に郵送したとの立証もしていない。被告行為(一)及び(二)に係る郵便物を郵送したのは、中尾泰昭である。本件は、被控訴人と中尾とが、通謀して、控訴人を潰すことによって組織の引締めと建直し等を図って行われたものである。現に、中尾は、乙第二四号証ないし第二八号証の文書を配付しているのである。

2  本件裁判は、控訴人を狙い撃ちにした不当裁判である。

3  被控訴人は、損害を被っていない。

二  被控訴人の当審における主張

1  控訴人は、本件封筒が郵送された宛先の住所、氏名等を知らないと主張するが、本件封筒は、被控訴人の支部長クラスの者に郵送されているところ、控訴人は、被控訴人の支部長をしていた当時、被控訴人が作成した全国の支部長の名簿の交付を受けていたのであるから、本件封筒の宛先等を全く知らなかったということは到底あり得ないことである。

また、控訴人は、亡中尾泰昭が被告行為(一)及び(二)に係る郵便物郵送した旨主張をしているが、これを裏付ける証拠は一切ない。控訴人及び亡中尾は、いずれも、被控訴人から除名処分を受けた者であり、除名処分に反発し、協力し合って、被控訴人を誹謗中傷する書籍を出版したところ、亡中尾が、その後、病を得て死亡したため、控訴人は、これを奇貨として、本件不正競争行為の責任を右中尾に転嫁するような主張をしているのであって、控訴人の右主張が理由がないことは明白である。

2  控訴人は、本件裁判は不正な裁判であるなどと主張しているが、その具体的な内容は明らかにされていない。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり、控訴人の当審における主張に対する判断を付加するほかは、原判決の事実及び理由の第三 判断のとおりであるから、これを引用する。(ただし、原判決二〇頁一行に「平成四年三月二二日」とあるのを「平成四年三月二三日」と訂正する。)

(控訴人の当審における主張に対する判断)

1(一) 控訴人は、被告行為(一)及び(二)を行っておらず、また、その立証もされていない旨主張するので検討するに、証拠(各項目ごとに括弧内に摘示する。)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 控訴人は、昭和四〇年頃、被控訴人の前身である社団法人連盟に入門し、平成四年三月二三日に除名処分を受けるまで、社団法人連盟傘下にある大分明野、大分向陽両支部の支部長として活動し、また、大分県少林寺拳法連盟理事長に就任していたものであるが、平成元年頃から、社団法人連盟の組織運営等に不満を持ち、本部の指示等に従わなかったり、無断で、国際拳法連盟の名称で自分の門下生に允可状を発行するなどし、社団法人連盟の事業等が被控訴人に承継されてからもこれが続いた。(甲第四八号証ないし第五〇号証、第七三号証)

(2) 控訴人は、平成三年一二月四日、東京在住の知人である上平恵美子の了承を得て、高井戸駅前郵便局に、「少林寺代表上平恵美子」名義で口座番号を「東京8-559043」とする郵便振込口座を開設した。(甲第五五号証の一、二、乙第一二号証、弁論の全趣旨)

(3) 社団法人連盟傘下の北海道札幌市所在の支部の支部長である成田實等多数名は、平成三年一二月一七日頃から同年末頃までの間に、いずれも、宛名の下に不動文字で「少林寺拳法は普通名称です。空手、剣道と同じで誰が使用してもかまいません。正統少林寺拳法振興会 〒177東京都関町南213015」と記載された郵便物(本件封筒)を受け取った。本件封筒の中には、「少林寺拳法宗由貴派 武道会の豊田商事事件に発展か 拳士の積立金・元利およそ10億円の行方は-」との見出しの下に、「●宗道臣君は戦前中国へ行った事があるか?●宗君直筆の八光流の入門願書は何を意味するか?」などと記載され、更に、「以上数々の疑問に答えてくれる会員制情報誌 年会費10、000円」等と記載されたパンフレット(本件パンフレット)及びあらかじめ口座番号欄に「東京8-559043」、加入者名欄に「少林寺」と記入された郵便払込通知書が同封されていた。(甲第五号証ないし第七号証、第七三号証)

(4) 西尾武及び神保昭人は、前記郵便払込通知書を利用して右口座に一万円を振り込んだところ、しばらくして、差出人を「正統少林寺拳法振興会」とする郵便物を受け取ったが、その中には、本件小冊子等が同封されていた。(甲第八号証ないし第一二号証、第七三号証)

(5) 控訴人は、被控訴人から除名処分等を受けた後の平成四年四月一二日、控訴人を運営の責任者とする国際拳法連盟大分県拳法連盟という名称の拳法組織を発足させ、大分市生石二丁目二-一一所在の道場等において、門下生に対して拳法の指導を続けていた。(甲第七一号証の一、二、第七三号証)

(6) 控訴人は、平成四年五月前後頃、被控訴人を糾弾すべく、少林寺拳法の関係者多数に対して、差出人名義を「国際拳法連盟大分県拳法連盟」とし、その住所を「大分市生石2丁目2-11」として、本件小冊子と同じ体裁のものを同封した郵便物を郵送した。(甲第五一号証及び第五二号証の各一ないし四、第五四号証、第七三号証)

(二) 右認定の事実によれば、本件パンフレットと郵便払込通知書の同封された本件封筒の郵送、右パンフレットに従って所定の金員を右郵便振込口座へ振り込んだ相手に対して本件小冊子等の同封された郵便物を郵送するという一連の行為を行い得る立場にいるのは、右郵便振込口座を開設した控訴人のみであり、しかも、控訴人は、本件小冊子と同じ体裁のものを少林寺拳法の関係者多数に郵送しているのであるから、控訴人が、被告行為(一)及び被告行為(二)を行ったものと認めるのが相当である。

(三) 控訴人は、本件封筒を受け取ったとされる者は、いずれも、控訴人の友人でも弟子でもなく、控訴人は、会員数数百万人に及ぶ被控訴人の門下生の住所、氏名などを知らない旨主張する。

しかしながら、甲第七〇号証、第七二号証の二、第七三号証及び弁論の全趣旨によれば、社団法人連盟及び被控訴人は、本部の指示、指導のもとで運営されている全国的な組織であり、「少林寺拳法」という名称の機関誌を発行して全国の会員に配布しており、更に、全国の支部長の名簿を作成して、これを各支部長に交付していたことが認められ、右認定の事実によれば、社団法人連盟傘下の大分明野、大分向陽両支部の支部長であった控訴人が、本件封筒の送付先である社団法人連盟傘下の支部の支部長の住所、氏名を知らないということは考えられないのであって、控訴人の右主張は、採用することができない。

また、控訴人は、被告行為(一)及び(二)に係る郵便物を郵送したのは中尾泰昭である旨主張する。そして、乙第四一号証(福田正治作成の陳述書)には、右主張に沿った記載があることが認められる。

しかしながら、甲第七二号証の一及び二(高松地裁平成六年(ワ)第二九号謝罪広告等請求事件における福田正治の本人尋問調書)によれば、中尾の関与についてあいまいな陳述に終始し、中尾とは特段の付き合いがなかったなどとしていたのに対して、乙第四一号証においては、中尾の言動が著しく具体的になっていて不自然であり、しかも、同号証に記載されている中尾の行為が被告行為(一)及び(二)とどのように関係しているのかも明らかでないから、結局、同号証は、採用の限りでない。その他、控訴人の右主張を裏付けるに足りる証拠はない。

(四) 以上によれば、控訴人は、被告行為(一)及び被告行為(二)を行っておらず、また、その立証もされていないとする控訴人の前記主張は、理由がないものといわざるを得ない。

2 控訴人は、本件裁判は、控訴人を狙い撃ちにした不当裁判である旨主張しており、つまるところ本件訴訟が訴権の濫用に当たる旨の主張と思料されるところ、本件全証拠によっても、本件訴訟が訴権の濫用に当たるものと認めるに足りない。

3 控訴人は、被控訴人が損害を被っていない旨主張するが、被控訴人が損害を被っていることは、原判決の第三 判断の三に摘示のとおりであって、控訴人の右主張も採用することができない。

二  よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法六七条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成一一年四月一日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

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